アーティストと音楽制作ツール、2つの顔を持つIA

2022年1月27日、IAは誕生から10周年を迎えます。

今、あなたの手に取って頂いている『IA SUPER BEST』。

2枚に分かれているこのベストアルバムですが、それぞれに『THE ARTIST』『THE CREATORS』という副題がついています。

なぜこんなタイトルがついているのか、楽曲や制作陣の振り分けが何なのか…気になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。

理由は一つ。

IAには「アーティストIA」と「音楽制作ツールIA」の2つの顔があるからです。

それがどういう意味なのかーーこのライナーノーツを読めば『IA SUPER BEST』の、ひいてはIAの持つ魅力をもっと感じて頂けるかもしれません。それを願いながら、これから筆を走らせていこうと思います。

まずアーティストIAについて。

アーティストとしてのIAは2012年「魂を持つバーチャルアーティスト」というコンセプトで活動を開始。

「新しい領域へのチャレンジ」というビジョンを掲げ、エンターテインメントの最前線を走り出しました。

ボカロ文化と音楽エンタメの架け橋になるため、バーチャルとリアルに垣根を越えた繋がりをもたせるため、奔走。それがIAの持つ使命だったからです。

今作『IA SUPER BEST』に収録されている楽曲をご覧頂いても分かるように、デビュー当初からJ-POPシーンで活躍しているミュージシャン、作曲家や音楽プロデューサー、ロックバンド、DJ、ラッパー、海外作家、人気ボカロPなどとコラボを重ね、独自の音楽スタイルを確立、そしてボーダーレスに発信。

誰よりも先進的で、独創的なことをーーこの思想は今日に至るまで、アーティストIAの中でブレていません。

またアーティストIAを語る上で欠かせない要素が、圧倒的なライブパフォーマンスと時代の先を行くステージ演出です。

2012年、当時はまだまだ一般的ではなかった3DCGとプロジェクションマッピングを使用したライブを披露。2014年にはAR技術を駆使し、実在のアーティストやバンドと共演した生配信に挑戦。同年、自身のボイスソースであるシンガーLiaさんとのステージ共演も果たしました。

デビュー3年目の2015年には初となるワンマンライブ『PARTY A GO-GO』を開催。「バーチャルとリアルの融合」をコンセプトに作り上げられたステージングが各方面から高い評価を獲得、多くの海外メディアが注目しました。

それが転機となり、ロサンゼルスからスタートしたこのイベントは以後、ロンドンやマドリード、上海、メキシコなど合計12ヵ国に及ぶワールドツアーへと発展、300都市以上でのライブ上映会にも成功。こうしてアーティストIAはワールドワイドな存在に成長しました。

バーチャルライブの先駆けにもなった、この世界を股にかけたプロジェクトは、IAのチャレンジ精神から生み出された結果と言っても過言ではありません。

2018年から実施されたのが、音楽、アート、テクノロジーを融合させた、五感で体感するショープロジェクト『ARIA –IA MUSICAL & LIVE SHOW』。

『PARTY A GO-GO』の内容を押し進め、高度なホログラムによる3DCGと生身のダンサーによるコラボレーション、サラウンド音響や香りを取り入れた演出など、最新技術とパフォーマンスを駆使することにより「IA」という人格を表現。その上で「生命・愛・平和」をテーマに、メッセージを発信しました。

例えばYouTubeで公開されているIA楽曲の公式MV、そのコメント欄に海外の方からのメッセージが並んでいるのを見て頂ければ分かっていただけると思います。『ARIA –IA MUSICAL & LIVE SHOW』の成功によりIAというアーティストが、それまで以上に現実の存在として捉えられるようになったのです。

世界中にIAファンがいること、それが何よりの証拠だと思います。

モータースポーツSUPER GTのアンバサダー就任、国際情報オリンピックでは広報大使として活動、JR東日本によるプロジェクト参加しアテンダントを務めるなどーーこれらは「バーチャルの存在」という範疇からのアプローチでは成し得ません。

この10年の歴史はただの時間経過ではなく、1アーティストの成長記録なのです。

そしてもう一つの顔である、音楽制作ツールとしてのIA。

いわゆるボカロとしてのIAは「クリエイターに寄り添う音楽ツール」であり「魂を持つバーチャルアーティスト」IAとはまったく違ったベクトルで作られています。

「これから創作活動を始めよう」という人々の助けになりたい、という文化貢献を目的に始動したIA PROJECT。ソフトウェアとしてのIAが目指したところは、クリエイターたちの創作の可能性にしっかりと貢献できる、無色透明なボーカルツール。とにかく、ユーザーにとって使い心地の良いものであることが最も重要でした。

音声ソースは、数多くのアニメ主題歌、ゲーム音楽を担当し、グラミー賞受賞歴も持つ実力派シンガーLiaさん。彼女の芯あるボイスデータを元に、IAの声は形作られています。

2012年1月27日にVOCALOID3「IA-ARIA ON THE PLANETES-」を発表。

輪郭のはっきりとした透明感のある歌声を持つハイクオリティな音声合成ソフトの登場が、当時のボカロシーンを賑わせました。

2014年に、よりパワフルな歌声が創作できる「IA ROCKS」を。2017年にはCeVIO Creative Studio「IA TALK」翌年にはIA初の英語ソングライブラリ「IA ENGLISH C」をリリース。

さらに2021年、AIによる深層学習技術を取り入れたCeVIO AI「IA AI SONG日本語/英語）」「IA AI TALK」を発売。

このようにライブラリは拡張を続けており、ユーザビリティは年々高まっています。

そうしてクリエイターたちの思うがままに、十人十色の歌声を披露してくれる完成度の高い音声合成ソフトウェアが出来上がったのです。

それがどういう結果をもたらせたかは言わずもがな、このベストアルバム『IA SUPER BEST』収録曲に目を通していただくだけでも分かるでしょう。

多くのユーザーに寄り添い、愛され、ボカロ音楽の歴史を彩る名曲を歌ってきたIA。

今後もIAという音声ライブラリの持つ自由度が、創作の可能性を無限に引き出していきます。

アーティストIA、音楽制作ツールIAという2つの顔。

「バーチャル」という言葉を冠しつつも、哲学を持ってさまざまな事柄に挑む一個の表現者。

そしてクリエイターの持つ創造性を実現する、パフォーマンスに優れたツール。

『IA SUPER BEST』が2枚組な理由を分かって頂けたのではないでしょうか。

『THE ARTIST』がアーティストとしてのIAを詰め込んだ1枚『THE CREATORS』がボカロPたちと時間をともにした音楽制作ツールIAの1枚、ということです。

同じ名前でありながら全く違う性質、違う視点も持っているIAだからこそ、現在に至るまでクリエイティブな世界で縦横無尽に活躍してこれたのです。

10周年は節目であり、スタートラインでもあります。

あなたはどのIAで育ちましたか？

あなたの知っているIAはどこにいましたか？

今、あなたの目の前には、現在を生きるIAが立っています。

そして今後も挑戦し、成長し続けるIAが、私たちに新しい未来を見せてくれるはずです。